大豆イソフラボンは体にいいのか、悪いのか?
健康情報に敏感な方なら、大豆イソフラボンが及ぼす健康効果について
世界的に賛否両論あることはご存知かと思います。
- 大豆はホルモンバランスを整える!
- イソフラボンは若々しい肌に良い
- 癌になったことのある人は食べない方が良い!
- 大豆の食べ過ぎは精子を減らす!
ある時は危険な食品だと避けられ、
またある時は健康食として勧められる私たちにとって身近な食品である大豆。
大豆をめぐる様々な噂が蔓延する中、結局何を信じて良いかわからず
困っておられる方は多いのではないでしょうか?
数ある大豆批判の中でも非常によく耳にするのが
”エストロゲンと似た働きをする
イソフラボンは摂りすぎると乳癌の発症リスクを高める”というものです。
前回”ホルモンバランスを整える食”に関する記事で
ファイトエストロゲン(植物性のエストロゲン)の事には少し触れました。
今回の記事では、少し掘り下げて大豆のファイトエストロゲンが
女性の体に与える影響について医学博士の声をご紹介したいと思います。
非利益のウェブサイト「ニュートリションファクツ」の主宰者であり
栄養に関する最新の科学研究の知見を提供してくれる
マイケル・グレガー医学博士は、
大豆が元乳癌患者に与える影響を動画で下記のように
詳しく説明しています。
(抄訳)
<主題 大豆は乳癌克服した人にとって健康的といえるか。>
近年、大豆食品は医療専門家の間でも議論の的となっています。
インターネット上の誤った情報の流出により状況は悪化しています。大豆食品はイソフラボンと呼ばれるファイトエストロゲンを含んでいるため、乳がんを促進するという誤解が生じているのです。
エストロゲンは乳癌の増殖を促進するので
(植物由来のエストロゲンである)ファイトエストロゲンも
同様ではないかと思われてまうのです。
しかし人体には2つのタイプのエストロゲン受容体(α及びβ)があり
そのことはあまり認識されていません。実際のエストロゲンと異なり、大豆に含まれるファイトエストロゲンは
優先的にエストロゲン受容体βと結合して活性化を始めます。2種類の受容体は組織分布も異なるためこの区別を理解することは重要です。それらは相反する機能を有することがあるのです。
“乳房の場合は受容体βでの活性化からの抗エストロゲン作用により、
実際のエストロゲンによる細胞の増殖作用を阻害します。”(中略)
乳房細胞に対する(人の主要なエストロゲン)エストラジオールの効果は
乳癌細胞に増殖阻害効果を与える大豆由来のファイトエストロゲンの作用とは全く反対で少量の大豆を食べるだけで血中に低濃度の変化がみられるので、1カップの大豆を食べた後に血中レベルで有意義な受容体βの活性化が引き起こされると考えるのは理にかなっています。
では、
大豆が乳癌のリスクを高める可能性があるという時代遅れな考えは
どこからやってきたのでしょう。
それは大豆の主なファイトエストロゲンである(イソフラボンの1つ)
ゲニステインが一種のマウスにおいて乳腺腫瘍の成長を刺激することを示した研究に基づいています。
しかしヒトはそのマウスとは異なります。ヒトの大豆イソフラボン代謝はげっ歯類の大豆イソフラボン代謝とは大きく異なるのです。
同大豆はげっ歯類の血流において20〜150倍高い濃度に導き、
ここでの乳癌マウスの場合は58倍高い濃度のものでした。ですから、(ヒトは)1日に大豆58杯を食べればかなりのα活性化が得られるでしょう。
幸いヒトは実験に使用された”胸腺欠損卵巣除去ヌードマウス”とは異なるので
1日に58カップもの大豆を食べることはないでしょう。1日何回かの少量の大豆の摂取で過剰なβ活性化を計ることで
大豆が大いに乳がんの予防に役立つと考えられます。また幼年期、青年期、成人以降における大豆の摂取は
それぞれ乳がんリスクの低下に関連しており、
青年期に最も大豆を食べた女性はリスクが半減しているようです。それによりアメリカでの乳がん発生率がなぜアジアでの発生率より高いのか説明がつきますが、アジア人がアメリカにやって来きてアメリカ人のような食事や生活を始めると彼らのリスクは直ちに高まります。
例えばコネチカット州の女性が50歳代で乳がんを発症する例は
日本の50代の女性に比べて10倍も高いのです。しかし遺伝的なものだけではありません。彼らがアメリカに移住すると現地の文化と同化し代を重ねるごとに乳がん率が上昇するからです。
大豆食品の抗エストロゲン作用は、病気の経過を実際に変えるのに十分かどうかは
2009年に”大豆の食物摂取と乳癌生存率に関する初のヒトを対象とした研究”が
アメリカ医師会誌に発表されるまで判明していませんでした。そこには”乳がんの女性における大豆の食物消費は死亡リスク及び乳がん再発のリスクの低下と有意に関連している。”と示されていました。
別の研究が後に続き、さらに別の研究が続いても
全て同様な結果が得られました。それらは癌の克服者のための栄養指針を提供するために、
広範囲のがん専門家を集めたアメリカがん協会が大豆食品は
むしろ有益であるはずだと結論づけるのに十分な結果でした。
その後さらに2つの研究が発表され、合計5つの研究が発表されましたが
それらはすべて同じ方向を指しています。
5つ全てにおいて10,000人以上の乳癌患者を追跡調査しています。
結果をまとめると、乳がんの発症後の大豆食物摂取量は死亡率の低下
と再発率の低下に関連していたため、再発の可能性は低くなりました。(中略)
この改善された生存率は、エストロゲン受容体陰性腫瘍と
エストロゲン受容体陽性腫瘍を有する女性の両方および若い女性、
高齢の女性の両方に確認されました。(中略)
まとめ
大豆のイソフラボンには
エストロゲン様作用と抗エストロゲン作用という相反する働きがあります。
エストロゲン様作用とは
体内でのエストロゲン分泌の低い状況下では
ファイトエストロゲンはエストロゲンの代わりになる働きをします。
卵巣の機能が停止したあとはエストロゲン分泌が95%カットされますが、ファイトエストロゲンが更年期のホルモン治療の代替えになるといわれる部分はこのエストロゲン様作用に関連しています。
抗エストロゲン作用とは
ファイトエストロゲンは本来のエストロゲンが過剰な場合、
本来のエストロゲンの作用を抑制する働きです。
これが乳癌の予防に役立つといわれる理由です。
乳癌予防の鍵を握るのはαとβと2種類あるファイトエストロゲンの受け皿である
”エストロゲン受容体”のうちβの方です。
βが活性化された時、同時にαの働きが抑えられます。
動物性のエストロゲンは、α受容体にはまるとがん細胞増殖につながり、植物性エストロゲン(イソフラボンなど)はβ受容体にはまることで、動物性エストロゲンがα受容体にはまることを防ぎ、α活性化によって起こる病気の予防や改善につながります。
最後に
大豆イソフラボンは乳癌の予防に効果があること、また乳癌を克服した人々にとって健康効果があるというのは信憑性が高そうです。
しかしながらそれは大豆が全ての人に100%の健康効果をもたらすことを保証するものではありません。現在、大豆批判の対象になる成分にはイソフラボンの他にもレクチン、フィチン酸、ゴイトロゲンなどがあげられます。
加えて遺伝子組み換え、アレルギーの問題、発酵・未発酵状態での成分の違いが指摘されることがあります。
マイケルグレガー博士が参照した論文などのソースはこちらに全て記載があります。ぜひ参考にされてみてくださいね。